ゆく河の流れは絶えずして

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 机の上に溢れんばかりの山となった仕事があるにもかかわらず、前日は17時過ぎに退社したこともあり、繁華街も静かになりつつある23時過ぎにオフィスを出た。といっても実際には弊社はペーパーレス化が進んでおり、机の上に山はなくノートパソコンと、デュアルディスプレイ用のモニタ、そしてお気に入りの紅茶だけである。

 飲み会帰りの陽気なサラリーマンや、学園祭の準備をしていたと思われる学生の集団、これから熱い夜を過ごすのであろうカップルとともに電車に乗り込み、帰路へと向かった。

 金曜日の夜は一週間仕事を頑張った自分への労いを兼ねて、帰り道のコンビニで普段我慢している甘いお菓子や飲み物を買うのが恒例となりつつある。昨日はそれはアーモンドチョコホイップパンであった。また、日ごろ仕事が遅くなると健康を考えて夜ご飯は簡単に済ますことが多いが、昨日は金曜日だったので夜更かしをすることを前提にカルビ焼き弁当を買った。濃い茶色のたれがたっぷりとかかった、白ご飯が進みそうなカルビ焼き弁当。

 

 僕はどちらかといえば少食だ。無料で大盛にできますと言われても、大盛にすることはほとんどない。特に最近は健康や体型を気にして、「ご飯は少な目でお願いします」と店員に伝えることも多い。昨日のカルビ焼き弁当もとてもおいしかったけれども、お腹がいっぱいになって白ご飯は少し残した。

 一般に食べ盛りだといわれる高校生のときも少食だったのかと尋ねられるとあまり記憶が定かではない。ただ、大学生のときは少食だった記憶がおぼろげながらある。それでも、当時はお金もあまりなかったので、お腹を満たすために、またコストパフォーマンスを考えて大盛を注文することもあったように思う。

 

 学生時代は親元を離れ、全国的にも有名な川のすぐ近くに住んでいた。街のシンボルともいえる、優雅に流れる川だった。春は満開の桜、初夏には放流されたホタルが瞬き、秋は紅葉、冬には川辺に雪が積もった銀世界のあいだを流れていく。観光客、地域住民、そしてなにより四季に愛された川であった。休日はよく河川敷を自転車で駆け抜けた。

 当時を思い出すと、今では少し気恥ずかしくもあるが、とても充実した日々だったように思う。卒業して何年も経った今でも、昔を懐かしみ、あの頃に戻りたいと思うこともときにあるが、それが叶うことはない。

 

 家の近くであり、その川の近くでもあるところにもまた、コンビニがあった。そのコンビニでは300円ほどで牛カルビ焼き弁当が売られていた。たまに50円引きのシールも貼られ、学生の僕は濃い味とその見た目に誘われて、飽きもせず何度も何度も買っていた。お肉は薄く切られ、脂身が多く、もしかしたら今ではあまりおいしいと思わないかもしれない。

 当時はそのお肉がとてもおいしく、お肉とご飯を同じ量だけ食べるとお肉がもったいなく思えて、少しのお肉で多くの白ご飯を食べた。そのように食べ進むと、白ご飯は先に無くなり、お肉だけが残る。

 僕は自分で炊いて冷凍していたご飯を解凍してお弁当に追加し、最後の一切れまで大事に白ご飯とともに味わっていた。それは間違いなく幸せのひとときであった。