白い嘘と気遣い

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 英語にwhite lieという言葉がある。ロングマン英英辞典では、

a lie that you tell someone in order to protect them or avoid hurting their feelings

と定義されている。相手を守る、あるいは傷つけないようにつく嘘。日本語には適切な訳語はないけども、「嘘も方便」、「お世辞」、「建前」、「気遣い」…あたりが近い言葉か。

 

 先日、10人強が参加する会社の飲み会があった。その会場は職場から2kmほど行ったところにあり、歩くには少し遠いが、電車で行くにも少し遠回りなため、いくつかのグループに分かれてタクシーで会場へ向かった。
 僕らは先頭集団で、早めに会場に着き、皆が到着するのを待っていた。遅れること2-3分、続々と他の参加者が集まってくる。

 しかしながら、その飲み会の主賓だった海外子会社の社長2名がなかなか会場に来なかった。他の参加者全員が到着してから数分程度待っていても、その2名は一向に姿を現さなかった。遅れるという連絡もなかった。
 そこで、数少ない僕と同い年の同僚が、状況を確認するために電話をかけた。飲み会の開始が少し遅れビールを待ち望み、少し盛り上がり始めていた約10人が電話に耳を立てる。

 

「もしもし?今どちらにいらっしゃいますか?」

「そうなんですね。私はもう会場についています」

「そうですねー、少しずつ集まってきたところです

「はい、では失礼します」

 

 「もうみんな着いてる?」と聞かれたのであろう。その2名以外は全員会場に到着していて、かつ数分は待っていた状況だったにもかかわらず、彼は「他の皆さんはもう揃っています」ではなく、「少しずつ集まってきたところです」と答えた。

 これは彼の気遣いであり、「白い嘘」の典型例だと思う。彼の言葉は、遅れてくる2名が感じるかもしれなかった申し訳無さを感じなくさせた。
 そしてそれはその場にいる人から少し称賛された。

 

 でも、この白い嘘をつくことは、彼にとって、その2名にとって、すでに会場にいた人にとって、つまり全員にとって、本当によかったことなのだろうか。

 その2名は「少しずつ集まってきたところなのに、なんで電話がかかってきたのだろう?もしかしてもうみんな揃ってるのかな?」と思ったかもしれない。
 また僕は、この件以降、彼の言葉をいまいち信じられなくなってしまった。「彼はこう言っているが、それは本心ではないかもしれない」と疑うようになった。

 

 思っていることや本音、事実を正直に言うことは誠実なことであり、良いことである。僕自身も誠実でありたいと考えている。

 しかしながら、誠実であることが良いことだけではないということもまた事実である。誠実であろうとして、ありのままを全て伝えて必要以上に人を傷つけたり不快にしたりすることは褒められることではない。人間関係を良好にするために敢えて人を良い気持ちにさせるような言葉を選ぶことも時に必要なことだと思う(僕は不器用だからなかなかできないけど)。誠実であることによって人を傷つけてしまっては意味がないし、誠実である自分に満足するだけの利己主義に陥ったり、デリカシーのない人と捉えられてしまったりすることは、望ましい結果ではないだろう。
 また、自分の思っていることをオブラートに包むことなく言ってしまう人は時に子供じみていると思われてしまうし、僕自身もそういう人に対してそう感じることもある(自分自身を振り返って反省することもある)。

 

 でもやっぱり、この白い嘘の出来事には違和感を感じずにはいられなかった。「なんでそんな平気な顔して嘘をつくの?」と。

 白い嘘は、実際のところは、世の中に溢れているものだと思う。

 でも、それが明らかな嘘であることとして認識してしまうと、なんかちょっと違うな、と思ってしまう。

 白い嘘、気遣い、そして誠実であること。この塩梅は僕にはとても難しい。