小川洋子の『妊娠カレンダー』を読んだ
この前の3連休、小川洋子の『妊娠カレンダー』を読んだ。
最近、うまくいかないなと思うことが多いのだけれど、その原因の一つがビジネス書や資格試験の勉強ばかりで、ろくに文学的なものや教養的なものを読んでいないからではと思ったのがきっかけ。
小説ならなんでもよかったのだけれど、好きな小説を読もうということで好きな作家の小川洋子から積読になっていた『妊娠カレンダー』を読むことにした。
1991年の芥川賞受賞作。
文庫本には『妊娠カレンダー』のほかに『ドミトリイ』『夕暮れの給食室と雨のプール』も含まれている。
『妊娠カレンダー』は、姉夫婦と一緒に暮らす大学生の妹が、妹の視点から、姉が妊娠してから出産するまでの出来事や自身の内面を日記のような形式で書かれている作品。
小川洋子の綺麗であり繊細な文体で、それでいて鮮明にイメージが出来てしまう生々しい描写に惹き込まれる。また、妹の少し悪意のようなものが見え隠れする内面を淡々と描いているのは少し怖さを感じる。
本作に妊娠に対する祝いの描写はない。
初産の場合、意外に妊娠=新しい生命に大して実感がないものなのかなとも思う。あるいは、新しい生命は部外者とでも言えてしまうのか。
姉は自分の赤ん坊について、冷静に説明する。胎児とか腹腔とか性器とか、母親に似つかわしくない言葉遣いのせいで、余計彼女の変形が不気味なものに思える。
胎児の染色体は順調に増殖しているだろうか。彼女の膨らんだお腹の中で、双子の幼虫が連なってうごめいているのだろうか。わたしは姉の身体を眺めながら考える。
『ドミトリイ』は、主人公である30歳手前の女性が、大学生になって東京で一人暮らしを始める従弟に、学生時代に住んでいた寮を紹介し、入居前後の彼のお世話に楽しみを感じる。入居後も彼のお世話のために寮を訪問するが、そのついでに会話をする寮の管理人であるお爺さんとのやりとりにストーリーが移っていく。
小川洋子はどの作品を読んでもやっぱり情景描写が素晴らしいと思うのだけれど、本作では一人暮らしを始めることに寂しさを感じている従弟に対する主人公の言葉が印象的だった。
「そうね。一人で暮らすというのは、何かをなくす時の気持ちに似ているかもしれないわね」
「だけど、一人暮らしでいくら淋しくても、そのせいで哀しくなるわけじゃないの。そこが何かをなくす時とは違うところ。たとえ自分が手にしている物全部をなくしたとしても、自分自身は残るわ。だから、自分をもっと信じるべきだし、一人っきりでいることを哀しんじゃいけないと思う」
本を読んだ感想を書くのは難しいけど、また月に1-2冊ぐらいのペースで紹介していきたい。
そのために月に1-2冊以上のペースで小説を読んでいきたいと思うのであった。