陽当たり
職場が変わったのに伴って、今のマンションに引っ越してきてもうすぐ2年。
管理会社から契約更新の案内が届いた。
学生時代に一人暮らしを始めて、就職に伴い会社の独身寮に引っ越し、職場が変わって今のマンションと、3つの家で過ごしてきたけど、今のマンションが一番気に入っている。
理由の一つは立地。
最寄り駅までは歩いてすぐで、さらにその駅は交通のアクセスがとても良い。
都心近くにありながら、街は都会の喧騒から離れた閑静な住宅街で、とてものどか。
また駅前に居酒屋はなく、道にゴミが落ちているところもほとんど見かけない。
車が一台通れるぐらいの幅の道に小奇麗で大きな一軒家が立ち並び、もしかしたら条例で制限されているのか、5階建て以上のマンションは全然見かけない。
外では子どもたちが遊ぶ声や、ピアノを練習している音がしばしば聞こえる。
これが友達みんなにこの街をおすすめしている理由でもある。
結婚して子どもが生まれたり、年収が倍になったりしても、東京に住んでいる限りは、この街に住み続けたいなと今は思っている。
二つ目の理由は部屋で楽器が弾けること。
部屋で楽器が弾ける。
これは、防音マンションというわけではなく、指定された時間のなかでお互い様という条件で、部屋で楽器が弾ける。
部屋で周りを気にすることなく楽器の練習ができることは嬉しい。
そして、それもさることながら、周りに住んでいる人の練習を聞くのもなかなか楽しい。
今のお隣さんは毎日バイオリンを練習されている。
普段はおそらく普通の社会人として働かれていて、毎日夜になると15分程度練習する音が聞こえてくる。
僕が引っ越してきたばかりのころは、多分バイオリンを始めたばかりでロングトーンもできない初心者の方だったのだけれど、2年たった今ではカイザーの練習曲を練習されている。
そんなお隣さんの練習を聞くと、15分程度の練習でも毎日続けると着実に上手になっていくんだなあと感心すると同時に、自分も練習しなきゃなという気持ちになる。
また、お隣さんではないけど、廊下を歩いているとお琴を練習している音や、アルトの声、激うまなピアノの音が聞こえたりするのもとてもよい。
三つ目の理由は陽当たりの良さ。
これまで住んでいた家はいまいち陽当たりが良くなかったけど、特に支障がなかったので、家を探すときに陽当たりは全然気にしていなかったし、何なら北向きの家で良いとさえ考えていた。
でも、今の家に住み始めてからは陽当たりが良いことは大事だと思うようになった。
特に冬。
お休みの日に朝から外へ出かけてお昼すぎに帰ってくると、部屋の中が暖かい陽に照らされ明るく、また暖房を入れなくてもポカポカしていて、得も言われぬ幸福感を感じる。
余談だけど、ロシア音楽が暗鬱としていることや北欧の作曲家が描く陽の光に対する喜びも、こういうことか、と納得するようになった。
と、今住むところの良さを書き並べて、高い更新料を自分の中で正当化しました。
空室率ほぼゼロなので、交渉しても当然のように安くならなかった…。